(ガク)
お兄ちゃんのいない日
ケイタのサッカー合宿の初日の夜のことだ。
僕も付き添いで泊まっていたので、この話はカミサンから聞いたのだが、『兄が今日明日といない』と知ったガクは、
「えぇー、おにいちゃん、ふたつ(二晩)もいないのーっ!」
と言って、にやりと笑ったという。
お兄ちゃんがいないので寂しがっているわけでなく、喜び勇んでそう言ったらしい。
この話を聞いて、なるほど、ガクは次男なんだなと改めて思った。僕も次男だったからその気持ちはわからなくもない。
日頃は兄の後ばかりくっついているガクも、時にはお母さんを独占したい、自分が家の中で一番でありたいと心のどこかで思っているのだろう。
ケイタの方は長男の甚六ぶりを発揮して、生まれた時から自分が中心で当たり前だと思っているふしがあるが、ガクはやはり2番目として、毎日いろいろ我慢しているところがあるのかもしれない。
僕たちは兄弟を分け隔てなく育てているつもりでも、誕生して数年間両親の愛を独占していた長男に比べ、次男はすでに一人いる子どもに新たに加わったという感覚があるのだろうか。
家族は一番小さな子どもを中心にしているところがあって、家族間の呼び名も弟が生まれてからは。兄のことを僕たちもガクに倣って「おにいちゃん」と呼んだりしているし、遊びに出かけるところもガクに合わせている。
だから、今回ガクが、「にやり」としたと聞いてすこし驚いた。
ガクが2泊3日のお泊り保育に行っていた間、ケイタが寂しそうにしていたのに比べ、弟は「たくましい」というか「したたか」である。
でも幼い子どもの気持ちは複雑だ。兄が合宿からかえってくると、暇をもてあましていたガクは、また、いつものように「おにいちゃん、おにいちゃん」と金魚のフンのように兄の後ばかり追いかけて遊んでいる。