幼い兄弟
先日、宮崎アニメのトトロを見ていてふと気がついた。
このメイちゃんたちのお母さんが入院しているのは人里はなれた療養所だ。時代背景を考えると、このお母さんは、たぶん結核で入院しているのだろう。
あの時のわが家も似たような状況だったのかもしれない。
それは僕が生まれてまもなくのことだ。母親が結核で入院した。
以下の話は赤ん坊の僕は全然覚えていない。後になって周囲から聞いた話なのだが、当時大阪に住んでいた僕たち家族は、母が入院することになってバラバラになってしまった。
3歳違いの兄とまだ赤ん坊の僕は、長野にいる母方の祖父母の家に引き取られることになった。
本当は兄は父方の実家に僕が母方にそれぞれ引き取られるはずだったのだが、母方のおばあちゃんが「幼い兄弟が離れてしまうのは可哀想だ」といって、ふたりとも預かってくれたのだ。
どのくらいそこに預けられていたのだろう。後に母が僕のオシメは代えたことがないといっていたので、だぶん2年ぐらいかもしれない。
そのおじいちゃんとおばあちゃんにはずいぶん可愛がってもらった。
その家にいたときのことだ。
赤ん坊だった僕はなんにもわかっていなかったけれど、両親と離れ、よその家に引き取られて兄はさびしかったのだろう。
寝ている赤ん坊の僕に向かって、3歳の兄が大阪弁で話しかけていた。
「けんじィー、ここはな、よそのおうちやで…、けんじのおうちは、おおさかやでぇ」
隣の部屋でそれを聞いていた祖父母は、幼い兄弟がかわいそうで涙を流した。
退院した母親が僕たちを迎えにきた頃には、僕はすっかりおばあちゃん子になってしまっていて、連れて行くのが大変だったらしい。
もう亡くなって久しいけど、祖母はこの話をするたびに涙ぐんでいた。