(ケイタ)
バレンタインディ・キッス
昨年までケイタはチョコレートが食べられなかった。だから
去年のバレンタインにはクラスの女の子にもらったチョコを母親に惜しげもなく渡して食べてもらっていた。
でも今年は種類にもよるのだが甘いチョコは食べられるようになったので、意味はよく分かっていないものの、ケイタはチョコがもらえるこの日を楽しみにしていた。
幼稚園のクラスでも、先生が男の子にはチョコを女の子にはキャンディをおやつに配ってくれるらしい。バレンタインとホワイトディを会わせたような催しだが子ども達には楽しみな企画なのだろう。
ケイタは単純にチョコが食べたいというだけだ。でも、園児の中にはチョコをもらう=人気者というバレンタインの図式を理解している子どもも何人かいるようで、お母さん方の話だと、ある男の子など、その日に女の子からチョコを貰えない事が人生最悪の出来事のように考えているらしく、何日も前から「チョコがもらえるかな」「誰でもいいからくれないかな」と心配しているという。ケイタなどまだ幼くて、女の子は「きもーい」と言っているくらいなので、まだまだそんなバレンタインディには縁遠いようだ。
それでも、ただ食べたいだけなのだがチョコは欲しいらしく、
「そんなにチョコが欲しいなら、クラスの女の子達の前で、『オイラは今年はチョコが食べられるようになったんだぜー!Baby!』 とアピールしてみたらいい。そしたら何人かから義理チョコがもらえるよ」
とアドバイスすると、そんなキモいことはできないときっぱりと拒絶した。
結局、ケイタは母親とババから『本命チョコ』をもらって、それが自分が食べられる種類のチョコだったので(もちろん渡す方がケイタの好物を知っているわけだが)彼としてはそれで充分満足した様子だった。