(ガク)
さらば、シャンプーハット
ガクは顔に水がかかることが何より嫌っていた。
小さい頃はずっとお風呂で頭を洗う時も、お姫様抱っこをして美容室のように仰向けで髪を洗っていた。幼稚園に入ってすぐにシャンプーハットを使うようになったけれど、少しでも顔に水がかかると、フェイスタオルですぐに拭かないと機嫌が悪い。
そんなガクをなんとか水に慣れさせようと、何度もなだめすかしを繰り返して、頭からお湯をかけようと試みたが、その度にガクは、
、
「一年生になったら、シャンプーハットはもう使わないで、頭からお湯をかけるからね」
と言い逃れをしてきた。
そんな具合だから、幼稚園のプールは何より嫌いで、こわごわ水に使っているだけだった。顔に少しでも水がかかると泣き顔になる。
そんなガクに、約束どおり一年生になったらすぐに頭からお湯をかけて洗うようにした
最初はじたばたしていたけれど、すぐに慣れて今では平気だ。
これまでの頑なな態度はいったい何だったのだろう。
しばらくすると水中眼鏡をかけて湯船にもぐるようになった。お風呂はもぐって遊ぶところという、正しいニッポンの小学生の入浴スタイルである。
さらに4月からスイミング教室にも通うようになり、この夏の海は水中眼鏡をもって行くんだと今から張り切っている。
先日そのスイミングスクールの様子を見学に行ったら、泳ぐどころかまだ水中での姿勢から直されていた。それでも平気でもぐったり、バタ足のような動きを見せたりと、ついこないだまで顔に水がかかるだけでべそをかいていたことを考えると、ものすごい成長振りだ。
夏の海水浴の準備で、自分用のボディボードを買ってもらってガクは大喜びしていた。
子どもの時間は驚くようにすばやく過去へと過ぎ去っていく。
浴室に、もう使わなくなったシャンプーハットが置き忘れられたようにぶら下がっていた。