(ケイタ)
肩もみ
「ちょっと、ババん家にいってくんなぁー」
そう言ってケイタはよく隣家の祖母のところに遊びに行く。
先日も祖母の肩をもんであげて、褒められた事をうれしそうに僕に報告してきた。
後から聞くと「いつでも(肩を)もんでやるからなぁ」と優しいことを言って祖母を感激させたらしい。
孝行息子を絵にかいたような話だけど、ケイタには優しいところがあって時々大人びた口調で優しいことを言うのだ。
褒められたものだから調子に乗って、母親や僕にも肩をもんでやるよと言ってきた。
僕も姿勢が悪いからなのか肩凝りは昔から持病の一つで、放っておくと首まで痛み出して頭痛がしてくることもあるくらいだ。いつもガチガチに固まっている肩はプロのボクサーに殴られても平気で「ありがとう」といえるくらいだ。
(じゃァ、お前はプロのボクサーに殴られたことがあるのか、というツッコミをされると困るけれど…)
肩を揉んであげるというケイタの言い方がおかしい。
「いっちょう、もんでやっかぁー」
とケイタは言うのだ。
ちょっと待て、その言い回しはちょっと意味が違う。ケイタは文字通り(肩を)もんであげるというつもりなのだけど、それは実力差のある種目で後輩を鍛えたりしごいてやる時に使う言葉だ。
「おとうさんも、いっちょう、もんでやるよ」
というケイタに、なにを生意気なと思ったけれども僕はかしこまって
「は、はい、宜しくお願いします…」と答えた。