(ガク)
謎の言葉
このところ電話に興味を持ち始めたガクはよく受話器をとって誰かと話している。
「もし、もし、ハチロクしろは、“うーあ”ですよ。またみてね。たのしかったね。ばいばい…」
架空の電話相手と何を話しているのかはガクしか知らない。
「何々は“うーあ”ですよ」というフレーズは彼のお得意で、何かの状態を説明しているらしいのだが、なにを言わんとしているのかが分からない。
ガクの言によると「インプレッサ青は“うーあ”です。ヨーグルトきなこは“うーあ”です」と何の説明にも使える便利な言葉のようだ。
具体的にこの“うーあ”が何をさすのか家族の誰にもわからない。
寝言でも時々、「“うーあ”です」と言っているところをみるとよほど彼にとってはお気に入りの大事な言葉なのだろう。
もう一つ、ガクの得意とする言葉に「へめっく」というのがある。これも何のことなのか家族の誰にも推測できないのだけど、今検索すると、新疆(しんきょう)ウイグル自治区で大きいナンのことを、『ヘメック』と呼ぶらしい。
(備考:ヘメック hamak チョン・ナン chong nan、すなわち大きいナンとも呼ばれる直径40~50センチはある巨大なナン)
まさか、こんな意味で使っているとは思えないが、この言葉も時々連呼するので、ケイタとこれはポケモンの名前かもしれないと話している。
ポケットモンスターは自分の名前を連呼する鳴き方をするのだ。ピカチュ―が「ピカピカ」としか言えないように、あるいはゼニガメが「ゼニ、ゼニ」というように、ガクが扮する「ヘメック」という名のポケモンも「ヘメック、ヘメック」という言葉のアクセントで感情を表現しているのかもしれない。ポケモン図鑑をそれこそ舐めるように熟読しているケイタには、そんなポケモンがいないということは百も承知なのだが、ガクが自分で創り出したポケモンなのだろうと彼はいっている。
「ヘメック」という言葉を言い方を変えて繰り返すしガク、もちをんふざけて遊んでいるのだろうけれど喜怒哀楽を表現しているような言い回しを聞いていると、ケイタの説が当たっているかもしれないと思う。