おかたづけ
ガラッガラー、ガッシャーンッ!
ガクがミニカーの入っているカゴをひっくり返している。
「ハチロクターボあったー」
ガゴいっぱいに入っているミニカーの中から、自分の探している車を見つけたいとき、ガクはカゴごとひっくり返して、散らばった100台ぐらいの中からお目当ての車を探し出すのを得意とする。
ちまちまとカゴの中を漁って車を探すのは潔くないとでも思っているのか、ちゃぶ台をひっくり返す星一徹もかくやと思うくらいの思い切りの良さである。男らしいというか単純というか、確かにこの方法が一番早く見つけることができるのだ。そして目当てのお気に入りのミニカーを見つけると、嬉しそうにテーブルに並べて遊んでいる。もちろん散らかしたミニカーはそのままだ。
母親が部屋中に散らばったミニカーを片付けおえたすぐ後でもお構いなしに、カゴごとぶちまけるこの探索方法を行なうので、そのたびに母親は嘆息している。
我が家の居間はいつもミニカーがどこかしこに散らかっていて、たまにそれを踏みつけるとかなり痛い思いをする。
先日、母親がいない時にケイタが散らかった車を片付けてくれた。
小学生になってから時々彼はこの手のお手伝いをしてくれる。
「ガク、お兄ちゃんがガクの車を片付けてくれたよ。お兄ちゃんに「ありがとう」って言いな」
「おにいちゃん、ありあと…」
ガクの舌足らずな御礼にケイタは少し照れたような顔をした。
そして、鼻の穴を膨らませて僕にこう言うのだ。
「お母さんに、(ケイタが片付けたと) 言っておいて」
おしいなぁ、このよけいな一言さえいわなければ、家のお手伝いをよくする、弟思いの優しいお兄ちゃんという、いい話で終わるのに・・・
「わかった…ちゃんとお母さんに報告しておくよ」
そう答えながらも、『言わずもがな』 という言葉が頭に浮かんだ。