(ガク)
発熱
ガクが熱を出している。赤ん坊や子どもの熱というと大人では信じられないくらい高くなるのでびっくりしてしまうのだが、大人だったらまず目が回っているだろうなという体温で平気で遊んでいたりする。それでも39度台もあるとさすがに目がトロンとして元気がない。
いつもはうるさいなぁとしか思わないガクの奇声「きぇええー」という声が聞こえてこないのも、いかにもさびしい。
熱が出るということは体の中で病原菌と戦っている証拠だ。こんな小さな体で一生懸命に戦っているのかと思うとたまらない気持ちがするけれど、そうやって抵抗力をつけていくことが彼の力となるのだ。
と頭では解っているものの、家のなかで誰かが具合が悪いと(特に子どもが具合が悪いと)ドーンと家の中が暗くなってしまうような気がする。
生まれてまだ一年にも満たない赤ん坊の存在が僕たちの中でこんなに大きくなっていたのかと改めて認識させられた。
具合が悪いのが自分だったら、自分で我慢すればそれですむ。ガクやケイタが苦しんでいたり辛そうなのを目にする方が僕には一番つらい。
でも、ケイタの時と比べてまだ僕たちには心の余裕があるのだ。ケイタが赤ん坊の頃は何もわからず、初めて熱を出した時にはそれこそ心配して救急病院に連れて行ったりしたものだ。
忘れもしない。夜中に近所の市民病院に駆け込んだ時のことだ。
その日の当直の若い医者が、やる気のなさそうにこう言った。
「子どもは熱を出すものです」
熱を出してぐったりとしているケイタをろくに診察もせずに、心配している僕達と目を合わしさえもせずにその若造は言うのだ。
思わず殴ってやろうかと思った。
だけど、ガクに対してはどこかで、赤ん坊ではあるけれど子どもの生命力の強さを信じている気持ちがある。落ち着いて病院に連れて行けるし、彼の自ら持っている力が熱に打ち勝っていくだろうと信じているのだ。
幸いガクの熱は赤ん坊特有の熱発性のものだったらしく、体に湿疹が出るとともにその熱も下がっってきた。