(ガク)
発表会予行演習
チョッキを上手く着れない小人
幼稚園の発表会でガクたちのクラスは『小人の靴屋』の音楽劇を行うことになった。
2、3ヶ月前からその練習をしているらしいのだが、ガクは幼稚園のことをあまり話してくれないので、ガクがいったい何の役をやるのかは母親たちの打ち合わせまでよくわからなかった。
ガクは10人の小人のうちのひとりらしい。母親たちが何回か集まって音楽劇の衣装作りをしていた。出来上がった衣装をガクに着せてみる。
三角帽子に長靴をはいた小人の衣装はとても可愛いものだったけれど、ガクは小人の衣装のベストをしきりに気にしていた。
「チョッキがうまく着れないんだ」
「お着替えはみんなが集まるときにママがやってあげるから、大丈夫だよ」
本番では衣装を着替えてから舞台裏に集合となるはずなのに、ガクはチョッキを着るのが一番になれない、という。。
お着替えは競争ではないよと説明しても、
「(となりで踊る)Sくんに負けるからイヤなんだ」と涙ぐんだりするのだ。
不思議に思っていたのだが、発表会の予行演習を見学してきた母親が撮ってきたビデオをみていてその疑問が氷解した。
音楽劇の中で、舞台に並んだ小人がチョッキを着るシーンがあるのだ。やさしいおじいさんおばあさんに作ってもらったチョッキを小人たちが喜んで着てみせる。
ああ、ガクはこのことを言っていたらしい。
確かにビデオのなかのガクはヒラヒラしたチョッキに上手く袖を通せなくて背中に丸まってしまっていた。先生の助けを借りて着せてもらって、少し遅れて踊る小人に加わっている。
それから発表会本番までの一週間毎日、ガクは幼稚園から帰ってお着替えする時に、小人のチョッキを着る練習を続けていた。